外交力の一層の強化を求める決議

自由民主党
外交再生戦略会議議長 高村 正彦
外交再生戦略会議顧問(外交・経済連携本部長)衛藤 征士郎
外交再生戦略会議幹事(国 際 協 力 調 査 会 長)中川 雅治
外交再生戦略会議事務局長(外交部会長)橋本 岳

わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、国民の生命と平和な暮らしを守り、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献することは、日本外交の最重要課題である。

グローバル化と脅威の多様化が進む中、安倍政権は「地球儀を俯瞰する外交」を積極的に展開し、日本外交の三本柱、すなわち、日米同盟の強化、近隣諸国との関係強化、及び日本経済の再生に資する経済外交の更なる展開を掲げ、諸課題に取り組んでいる。本年の平和安全法制の成立を踏まえ、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から国際社会の平和と安定に一層貢献していく必要がある。また、今後も、国連安保理常任理事国入りを目指すとともに、法の支配を尊重し、国際社会に向けてわが国の「正しい姿」を着実に発信していくことが極めて重要である。

本年始めには、シリアにおいて邦人人質がISILに殺害される痛ましい事件が起きた。その後も、チュニジアやバングラデシュにおいて邦人の死傷事件が発生している。さらに、先般、フランスでは卑劣なテロ行為によって多数の方々が犠牲となった。こうした暴力的過激主義が広まる中で、今もなお、ISILは日本国民や在外公館に対するテロを仄めかすなど、海外で活動する日本国民は危険にさらされており、その安全確保に向けて具体的な措置を講じることが急務である。

多岐に亘る外交・安全保障政策を実行するためには、わが国外交の基盤となる外交実施体制を一層拡充することが不可欠である。このような状況を踏まえ、わが党は、昨年5月に高村正彦議長の下で行われた外交再生戦略会議の議論を踏まえ「中間とりまとめ」を発表した他、本年6月の「外交力の抜本的強化を求める決議」等の累次の決議を通じて、わが国の外交力の強化を後押ししてきた。それを受けて、本年度は「スクラップ・アンド・ビルド」の考え方が適用されない形で外交実施体制の強化が実現している。

また、同月、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2015」において、様々な「人的・物的基盤を含む外交実施体制の整備を推進し、ODAの適正・効率的かつ戦略的活用を図ることで、総合的外交力を高めていく」旨を閣議決定している。本年2月には政府は新たに「開発協力大綱」を閣議決定しており、その下で、わが国の国際協調主義に基づく積極的平和主義や国際的目標を念頭に置きつつ、国益に資するODAを一層戦略的に実施することが必要である。加えて、GDP600兆円を目指して、自由貿易、投資拡大、地方創生等の推進を念頭に、また、TPP交渉が大筋合意に至ったことを受け、一層活発な経済外交を展開する必要がある。

アジア太平洋の安全保障環境が大きく変化しつつある中、特に明年は、G7サミット議長国及び国連安保理非常任理事国の就任、TICADのアフリカ初開催、日中韓サミットの日本開催等を契機に、国際社会におけるわが国のプレゼンスを向上させ、「地球儀を俯瞰する外交」を一層強力に推進する好機である。そのため、平成28年度予算編成において下記の事項を実現するよう、政府に対して強く求める。

  1. G7伊勢志摩サミットの開催、国連安保理非常任理事国就任、次回TICADのアフリカ初開催、日中韓サミットの日本開催等を見据え、国際社会におけるリーダーシップをこれまで以上に発揮すべく、ODAも活用しつつ、一層積極的な外交を展開すること。
  2. 上記の目標を実現するため、円安による影響を勘案することはもとより、補正予算を含め政策経費予算の大幅増額を達成すること。
  3. 各国の広報活動が活発化する中で、戦後70年の節目に行った本年中の諸取組も踏まえ、国際社会に対して日本の「正しい姿」と多様な魅力を発信し定着・浸透させるべく、戦略的対外発信を迅速かつ効果的に実施し、更に強化するため、関連の予算規模を増強し、政府の基盤を強化すること。その中で、民間との連携を強化し、海外において情報の発信源となる親日派・知日派の育成を推進すること。
  4. 近年のイスラム過激派の伸張等を背景に、テロの対象となることも含め、海外の邦人の安全がかつてないほど脅かされる中で、在外邦人・日本企業・日本人学校等の海外における一層の活躍を支え、在外邦人のテロによる被害を防ぐための安全対策を強化すると共に、日本国内でのテロ防止のため万全の対策を講じること。そのために、在外公館も含めテロ情報の収集能力・体制を抜本的に強化すること。また、在外公館の警備体制、老朽化対策、及び外交活動に関する情報セキュリティ体制を強化すること。さらに、国際社会に責任を有する日本として、テロのない世界の実現に貢献すべく、テロの温床となる貧困等の問題により力強く取組み、人間の安全保障の理念を踏まえた難民支援、人道支援、女性支援、貧困・保健衛生対策を含む社会安定化支援等を行っていくこと。
  5. ODAは、日本経済の活性化を含め国益実現の観点から日本外交にとって極めて重要な手段であることを踏まえ、ODA予算の大幅増額を実現すること。同時に、日本によるODAについてしっかりと広報し、また、支援の迅速化等の必要な改革を進めること。また、ODAに加えて様々な手段により、途上国における「質の高いインフラ」の整備や人材育成を含む貿易投資環境の整備を通じた日本企業の海外展開の推進を図ること。また、日本の国益の増進を念頭に,国際機関の邦人幹部職員について、分担金・拠出金に見合う規模と適切な配置を確保すること。
  6. 外交課題が山積する中、オリンピック・パラリンピック東京大会が行われる2020年を念頭に、欧米主要国並みの外交実施体制を整える必要があり、以下を実現すること。
    • 大使館及び総領事館の十分な新設を行うこと。
    • 人的体制については、当面の目標として2020年までにまずは英国並みの6、500人体制となることを目指して、外務省定員の大幅増員を実現し、同時に、一人ひとりの外交官の使命感及び見識の向上及び語学能力の研鑽並びにこれらを通じた効果的な対外発信と情報収集能力の向上のために研修制度を強化すること。
    • 女性職員の活躍を推進する取組を一層進めること。
    • 在外公館の業務が大幅に増大する中で、配偶者・家族を含め外交官が職責に応じ、その使命を果たしていくために相応しい欧米主要国並みの待遇・手当等を実現すること。
  7. 以上