第198回国会 厚生労働委員会 第3号(平成31年3月13日(水曜日))

冨岡委員長

 次に、橋本岳君。
 

橋本(岳)委員

 自由民主党の橋本でございます。
 十五分時間をいただきましたので、質疑をさせていただきます。
 資料がお手元に今配付されているかと思いますけれども、私は、この二月八日に医政局が出した医師法二十一条に関する通知について質問をしたいと思っております。
 もともと医師法二十一条というのは、死体とか死産児を検案して異状があると認めたら、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない、こういう規定でございまして、厚労省の資料によれば、これは犯罪の痕跡をとどめている場合があるので、司法警察上の便宜のために届出の義務を規定したものである、こういうふうになっているわけでございます。
 ただ、平成六年に、法医学会が異状死についてのガイドラインというのを出しました。あるいは、平成十六年に都立広尾病院事件の最高裁判決などが出まして、医療の中での予期せぬ死亡みたいなことについてのこの医師法二十一条のかかわり方というのはずっと議論になっておりましたし、また、医療事故調査制度、今動いていますけれども、その議論のそもそもはそこから始まったのであって、それも紆余曲折を経て今に至っている、こういう経緯がございます。
 その紆余曲折の中で、厚労省の方のいろいろな発言だとか答弁だとかによって、医師法二十一条についてはこれでいいかという納得だとか安心みたいなものがあって落ちついたという面があったと思っているんですが、その中でこの二月八日の通知というものが出たものですから、医療関係者の中で、ややびっくりした方とかざわついた方が多かったんじゃないかと思っております。ですので、ただ、もしそれが誤解なのであれば解いた方がよいという観点から、きょうはちょっと幾つか御質問したいと思っております。
 まず、この通知について、さっき幾つかの発言等と言いましたけれども、具体的に申し上げれば、平成二十四年十月二十六日、医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会というものがございまして、そこで当時の田原医事課長が御発言をされたこと、あるいは、平成二十六年六月に参議院厚生労働委員会で田村厚生労働大臣が小池晃参議員の質疑に対して答えた答弁等がありますが、その答弁というものをこの通知によって変えようとするものなのか、それとも、いや、答弁や発言というのはそのまま維持をされるものなのか、そこについて御確認をお願いします。
 

吉田政府参考人

 お答えいたします。
 委員お示しいただきました本年二月八日付の医政局医事課長通知におきましては、医師が死体を検案するに当たって、死体外表面に異常所見を認めない場合であっても、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況など諸般の事情を考慮し、異状を認める場合には、医師法第二十一条に基づき、所轄警察署に届け出ることを明らかにしたものでございます。
 御指摘いただきました二点、一つ目の二〇一二年十月二十六日の検討部会における当時の医事課長、これは事実関係を御報告しますと、「基本的には外表を見て判断するということですけれども、外表を見るときに、そのドクターはいろんな情報を知っている場合もありますので、それを考慮に入れて外表を見られると思います。」と発言してございます。
 あとは二点目、二〇一四年六月十日の参議院厚生労働委員会において当時の田村厚生労働大臣が答弁をされておりますが、この医事課長発言を引用する形で、「我が省の担当課長からこのような話がありました。死体の外表を検査し、異状があると医師が判断した場合には、これは警察署長に届ける必要がある」と御答弁をいただいております。
 今回の通知、いずれの発言とも、同趣旨の内容ということで私ども位置づけてございます。
 

橋本(岳)委員

 済みません、ちょっと更問いをさせていただきたいんですけれども、先ほど二点について聞きましたが、二〇一二年のあり方検討部会の方の発言は、中澤構成員に対する田原医事課長の答弁というところを引用していただきました。
 実は、その発言の前に、有賀構成員からやはりこの医師法二十一条についての問いがあって、田原医事課長が答えておられます。そこで、「厚生労働省が診療関連死について届け出るべきだというようなことを申し上げたことはないと思っております。」という答弁をしております。それから、これは田村大臣の答弁の方でも実は同旨の御発言がありまして、「医師法第二十一条は、医療事故等々を想定しているわけではないわけでありまして、これは法律制定時より変わっておりません。」さっき局長がお話しになった答弁の前に、そういう話があります。そこについても確認をしていただいていいですか。
 

吉田政府参考人

 お答えいたします。
 今委員引用いただきましたような二つの発言それぞれの前段について、そのような事実関係があったこと、私どもとしても同じように認識をしてございますが、今回の通知につきましては、従来の解釈あるいは従来の私どもの法二十一条について申し上げていることについて何ら変わることもなく、同趣旨を改めて確認させていただいたというふうに位置づけてございます。
 

橋本(岳)委員

 同趣旨を改めて確認させていただいたということですので、先ほど引用した答弁を変えるものではないんだというふうに理解をしたいと思いますけれども、ということは、もう一個戻ると、実はこの話が議論になったきっかけというのが、平成六年に日本法医学会が出した異状死ガイドラインというものだというふうに思っております。
 このガイドラインは、結構広範に異状死というものについて捉えるという感じの趣旨のものであろうと思っているわけでありますが、このガイドラインが示している内容とこの通知が示している内容というのは、同じものなんですか。
 

吉田政府参考人

 お答えいたします。
 学会のガイドラインということではありますが、私どもの理解ということで申し上げさせていただきますと、御指摘の異状死ガイドラインにつきましては、医師法第二十一条に基づく異状死体の届出の基準について、当時、日本法医学会としての見解を示されたものというふうに受けとめてございます。
 厚生労働省としましては、医師法第二十一条に基づく届出の基準につきましては、全ての場合に適用し得る一律の基準を示すことが難しいということから、個々の状況に応じて死体を検案した医師が届出の要否を個別に判断するものというふうにまず考えてございます。
 そういう意味で、今回、本年二月の医事課長通知においては、異状死体の届出の基準そのものではなくて、医師が異状を認めるか否かを判断する際に考慮すべき事項という点について改めて示させていただいているものでありまして、御指摘いただきました学会のガイドラインとの間でいえば、両者は単純に比較考量ができない違うもの、違うところに観点を持ってして行われているものというふうに位置づけさせていただいております。
 

橋本(岳)委員

 ちょっとこれもまた微妙な答弁だなと思いながら伺っていたんですけれども、違う観点なのだということでありました。
 その前段に局長がおっしゃったことを自分なりの理解でいえば、大事なことは、学会は基準を、一つこういうものでどうでしょうということを示された、それと、厚生労働省は、いやいや、基準というのは一律に言いにくいものなのだ、個別の判断をする、ただし、お医者さんがその個別の判断をしてもらうときに、こんなことを見てね、こんなことに注意をして判断をしてねということを言っているのだとおっしゃったんだと思うんです。
 だから、大事なことは、医師が個別に判断をするべきものなのだということに、医師法二十一条の異状というものの解釈はびしっと基準が示されるものではないんだということをお話しになったんだと思うんですが、その理解でいいですか。
 

吉田政府参考人

 お答えいたします。
 先ほどの答弁、今委員御指摘いただきましたように、厚生労働省としましては、二十一条に基づく届出の基準については、全ての場合に適用し得る一律の基準を示すことが難しいということであり、個々の状況に応じて死体を検案した医師が届出の要否を個別に判断するものという解釈に立って、私ども行政運営をさせていただいているところでございます。
 

橋本(岳)委員

 実は、今のところはとても大事な話なのであって、大事な話であるとともに実は悩ましいところであって、じゃ、個別の話というのはどういう基準で判断すればいいのかということが厚労省としては言いにくいのだという以上のことをおっしゃれないという状況にあるということ。だけれども、場合によっては、それによって逮捕されてしまったり、まあ過去の例はそれだけではないと思いますけれども、あるいは有罪になってしまったりすることがある。それは、都立広尾病院事件の最高裁判決でもそうなったということですし、福島県立大野病院事件でも、医師法違反も問われていて、これは結果として無罪になりましたけれども、医師の判断というもので有罪になったり無罪になったりすることがあり得る。だけれども、その基準を厚生労働省は示すことができない、個別に判断してねと言っているというのは、相当悩ましい状態ということはあるんだろうなとは思います。
 ただ、だからこそ、そこで今、僕が二回目に確認をしたこと、要するに、厚生労働省が診療関連死について届け出るべきだというようなことを申したことはないということは、その中で一つの補助線になり得る大事な発言なんだろうなというふうに思っているのであって、そのことも含めてきょうは確認をいただいたというふうに理解をしたいと思っております。
 続きまして、ちょっと別の観点になるんですが、この通知、最初の一言が「死因究明等の推進につきましては、」ということで始まっております。その例示に、「薬物中毒や熱中症による死亡等、外表面に異常所見を認めない死体について、」云々、こうなっているわけです。
 例えば熱中症も、パチンコ屋の駐車場で子供が放置されていて亡くなってしまった場合みたいな、その場合、保護者は保護責任者遺棄致死という罪に問われ得るわけですから、犯罪の端緒になり得る熱中症の御遺体というのはあり得るんだと思います。
 ただ一方で、多くがそういう話ではなくて、高齢者のおひとり住まいの方で、亡くなって、熱中症であろうという状況で発見をされたというような場合は、多分何の犯罪でも何でもなく、むしろそれは公衆衛生上の問題で、暑い日は冷房をつけて寝ましょうねとか、もっと水分をとりましょうね、そういう注意喚起をすることが求められるような状況というのはあります。
 ただ、この医師法二十一条というのは、全部警察に届出の話なんですね。
 さっきちょっと中島先生が虐待の話をされましたが、実は子供の話についても同じ。もちろん、虐待の場合も、犯罪であるということもありますから、それはそれでいいんですが、同時に、兄弟がいた場合とかは、やはり児相とかがちゃんとケアした方がいいよねということもあり得るわけで、この医師法二十一条というのは死因究明という文脈において全部警察に届けるということになっているんですが、警察というのはそういう公衆衛生だとかそのほかのことに関する死因究明も担当するようになったんですか。
 

吉田政府参考人

 お答えを申し上げます。
 警察におきましては、犯罪の捜査その他公共の安全と秩序の維持に当たることを責務といたしておりまして、そうした観点から、届出を受けた死体等について、その死が犯罪に起因するものかどうかや、その死因が災害、事故等、市民生活に危害を及ぼすものであるかどうかについて判断をしているところであります。
 熱中症による死亡の場合も含めまして、警察が届出を受けたときは、関係法令に従いまして犯罪性の有無等を確認することとなってまいります。
 

橋本(岳)委員

 前段はよかったんですが、まず犯罪の有無を確認すると。それはそうなんでしょう。だから、問題は、それだけでとどまっちゃいけない。だけれども、一般論として言えば、しばしば言われるのが、警察に一旦ケースが行ってしまう、そこでいろいろな死因究明のためのことがされるんでしょう、その結果というのが刑事訴訟法を盾に出てこなくなるということがよく言われるわけです。
 ですから、実際に警察が、もちろん、市民の安全のためにいろいろ努力をしていただいているということは理解はしますが、でも、公衆衛生に大事な役目を果たしているという話も今のところ聞いたことはないのでありまして、行った先が、届け出た先が、虐待対策だとかあるいは労災だとかいろいろなことに関係している、そこに対してもちゃんと行政的に何らかのフィードバックができるような仕組みというのを私は考えた方がいいと、かねがね思っております。
 この通常国会でも、今、各党各会派の御協力をいただきながら、死因究明に関する議員立法の調整をさせていただいているところでございますが、ぜひ、各位の御同意をいただいてこれを成立させたい、そして、そうした議論を一層進めるような状況というのをつくってまいりたいと思っておりますので、皆様方の御協力のお願いをいたしまして、私からの質問を終わります。
 以上です。ありがとうございました。